【専門医が解説】「仕事のミスが多い」「空気が読めない」…その“生きづらさ”、大人の発達障害が原因かも?
「何度チェックしても、ケアレスミスを繰り返してしまう…」
「相手を怒らせるつもりのない一言で、人間関係がうまくいかなくなる…」
「片付けが苦手で、部屋も机もいつもごちゃごちゃ…」
「周りの人と同じように『普通』にできない自分は、ダメな人間なんだ…」
このように、長年にわたって原因のわからない「生きづらさ」を感じ、自分を責め続けてはいませんか?
その困難は、あなたの努力不足や性格の問題ではなく、大人の発達障害という、生まれ持った脳の特性が関係しているのかもしれません。
発達障害は、近年その認知が広まり、「大人になってから」自分の特性に気づき、医療機関を訪れる方が非常に増えています。大切なのは、特性を正しく理解し、自分に合ったやり方を見つけることです。
この記事では、大人の発達障害の代表であるADHDとASDを中心に、その特徴から対処法、そして周りの方のサポートまでを詳しく解説します。自分を知ることは、自分らしく生きていくための最初の、そして最も重要な一歩です。

大人の発達障害とは? – 病気ではなく「生まれつきの特性」です
発達障害は、後天的にかかる「病気」とは異なり、生まれつきの脳機能の発達の仕方の違いによって生じる「特性」です。得意なことと苦手なことの差が、他の人と比べて非常に大きいという特徴があります。
そのため、ある特定の場面では素晴らしい能力を発揮する一方で、多くの人が当たり前にできることで、極端に苦労することがあります。この「凸凹(でこぼこ)」が、社会生活を送る上での様々な困難、すなわち「生きづらさ」の原因となるのです。
なぜ「大人になってから」気づくの?
「子どもの頃は、特に問題なかったのに…」という方は少なくありません。それは、子どもの頃は、親や先生のサポートがあったり、特性が「元気な子」「ちょっと変わった子」という個性として受け止められたりして、問題が表面化しにくいためです。
しかし、社会人になると、
- 自己管理能力(スケジュール管理、整理整頓など)が求められる
- 複雑な人間関係の中で、臨機応変な対応が必要になる
- 同時に複数のタスクをこなさなければならない
といった状況が増え、これまで何とかカバーできていた特性が隠しきれなくなり、「仕事がうまくいかない」「人間関係で孤立する」といった困難として、はっきりと現れてくるのです。

大人の発達障害の主な種類
ここでは、代表的な2つのタイプをご紹介します。両方の特性を併せ持っている(併存する)方も多くいます。
【ADHD(注意欠如・多動症)】
主に「不注意」と「多動性・衝動性」という2つの特性がみられます。
- 不注意の特徴(集中力や注意力のコントロールが苦手)
- ケアレスミスや忘れ物、失くし物が多い
- 仕事や作業の段取りを立てるのが苦手
- 片付けや整理整頓が極端に苦手
- 興味のない話に集中し続けることが難しい
- 約束や締め切りをうっかり忘れてしまう
- 多動性・衝動性の特徴(行動や感情のコントロールが苦手)
- 貧乏ゆすりなど、じっとしているのが苦手
- 会議中など、静かにしていなければならない場面でそわそわする
- 思いついたことを、考える前に行動に移してしまう(衝動買いなど)
- 相手の話が終わる前に、つい口を挟んでしまう
- カッとなりやすい、感情の起伏が激しい
【ASD(自閉スペクトラム症)】
主に「対人関係・コミュニケーションの困難さ」と「限定された興味・こだわり」という2つの特性がみられます。
- 対人関係・コミュニケーションの困難さ
- 相手の表情や声のトーンから気持ちを読み取るのが苦手(いわゆる「空気が読めない」)
- 冗談や皮肉、曖昧な表現を言葉通りに受け取ってしまう
- 思ったことをストレートに言いすぎて、相手を傷つけてしまうことがある
- 雑談や世間話が苦手
- 人と視線を合わせるのが苦手
- 限定された興味・こだわり
- 一度興味を持つと、驚異的な集中力でとことんのめり込む
- 自分なりの手順やルールに強くこだわり、変更されると混乱・パニックになる
- 特定の音、光、匂い、肌触りなどに非常に敏感(感覚過敏)、または鈍感(感覚鈍麻)
「二次障害」に苦しんでいませんか?
発達障害の特性そのものよりも、周りからの無理解や、「なぜ自分だけできないんだ」という失敗体験が積み重なることで、自信を失い、心身に別の不調をきたしてしまうことがあります。これを二次障害と呼びます。
うつ病、不安障害、適応障害、依存症などが代表的で、この二次障害のつらさがきっかけで医療機関を受診される方も少なくありません。

診断と治療 – 「自分を知り、対策を立てる」ために
発達障害の診断や治療は、「普通の人」になることを目指すものではありません。ご自身の「脳の取り扱い説明書」を手に入れ、その特性と上手に付き合いながら、困難を減らしていくための作戦会議です。
【診断】
ご本人の困りごとを詳しくお聞きする問診が最も重要です。それに加え、子どもの頃の様子を知るための生育歴の聴取(親御さんからの話や、通知表なども参考にします)、注意機能や認知機能の特性を客観的に評価するための心理検査などを組み合わせて、総合的に診断します。
【治療・対処法】
治療の柱は、特性に合わせて環境を調整することと、具体的な対処スキルを身につけることです。
1. 環境調整
ご自身の特性を理解した上で、苦手なことをカバーできるような環境を整えることが、最も効果的です。
- (ADHDの例)
- やるべきことを忘れないように、スマホのリマインダーやアラーム、付箋などを徹底的に活用する。
- 仕事に集中するために、パーテーションのあるデスクやノイズキャンセリングイヤホンを使う。
- 物の置き場所をラベリングして決める。
- (ASDの例)
- 指示は「あれ」「それ」といった曖昧な言葉を避け、「〇〇を△△してください」と具体的に伝えてもらう。
- 騒がしい場所が苦手なら、人混みを避ける。
- 感覚過敏に対して、サングラスや耳栓、肌触りの良い服などを活用する。
2. 心理社会的療法
- 心理教育:自分の特性(得意・不得意)を正しく理解し、受け入れることから始めます。
- 認知行動療法(CBT):困難につながりやすい考え方や行動のパターンを見直し、より現実的な対処法を身につけます。
- SST(社会生活技能訓練):対人関係やコミュニケーションの具体的なスキルを、練習を通して学びます。
3. 薬物療法
- ADHDに対しては、不注意や衝動性をコントロールし、特性による困難を和らげる効果が期待できる治療薬(コンサータ、ストラテラなど)があります。
- ASDの特性そのものに直接効く薬は現在のところありませんが、不安や抑うつ、イライラ、不眠といった二次障害や併存する症状に対して、お薬を使うことがあります。
ご家族や職場の方へのお願い
もし、あなたの身近な人が発達障害の特性で悩んでいるなら、その一番の理解者、応援者になってあげてください。
- 「怠け」や「わざと」ではないと理解する:ご本人が一番悩み、苦しんでいます。特性を責めずに、そのまま受け止めてあげてください。
- 得意なことに目を向けて褒める:苦手なことばかり指摘するのではなく、得意なことや頑張っていることを認め、伝えることが本人の自信につながります。
- 具体的で、分かりやすいコミュニケーションを心がける:ASDの方には特に、「なるべく早く」「いい感じに」といった曖撮な表現は避け、具体的に伝える工夫が有効です。
- 苦手なことへの合理的配慮を:本人が工夫や努力で乗り越えるだけでなく、周りが少し環境を調整することで、ご本人の能力が最大限に発揮されることがあります。
最後に
「大人の発達障害」と向き合うことは、決してネガティブなことではありません。これまで感じてきた「生きづらさ」の正体が分かり、その理由に納得できるだけでも、心がふっと軽くなるはずです。そして、理由が分かれば、対策も立てられます。
もしあなたが、一人で悩み、自分を責め続けているのなら、どうか勇気を出して専門機関にご相談ください。私たちと一緒に、あなたの「取り扱い説明書」を読み解き、あなたらしい輝き方を見つけるためのお手伝いをさせてください。
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